塗装ブースの目的と必要性
作業環境・安全・品質向上のための塗装ブースの役割を詳しく解説

塗装ブースは、現代の工業製品や建築分野において不可欠な設備です。塗装作業における安全・衛生・品質管理の観点から、その役割は多岐にわたります。本コラムでは、塗装ブースの必要性について詳しく解説します。
1. 作業者の健康と安全の保護
塗装作業で使用される有機溶剤は、長時間吸入すると健康被害を引き起こす危険性があります。そのため、日本では「有機溶剤中毒予防規則」に基づき、厚生労働省の指示による局所排気装置の設置が義務づけられています。塗装ブースは、局所的な排気装置を備えており、作業者が有害物質に曝露するリスクを最小限に抑えています。
2. 災害リスクの低減塗料や溶剤の引火性は、工場や作業場における火災リスクを高めます。塗装ブースの強制排気装置は、室内に滞留する可燃性蒸気やミストを速やかに排出し、爆発や火災の発生を未然に防ぐ役割を担っています。
3. 製品品質の向上塗装において、表面の美しさと均一性は非常に重要です。塗装ブースでは、給気フィルターなどによりホコリの少ない空気環境を安定的に維持することで高品質な仕上がりを実現できます。
4. 周辺環境への配慮塗装ブースでは、室内で発生した溶剤蒸気や塗料ミストを排出する際、公害防止の観点から排気空気中の塗料ミストを除去する装置が設置されています。フィルターや水洗方式のミスト除去装置によって、有害物質の大気中への流出を防ぎ、法令遵守と社会的責任を果たしています。
塗装ブースは、以下のような構造と機能を持っています。
- 囲い構造:塗料のミストや蒸気が外部に漏れないよう、堅牢な囲いで作業空間を区切ります。
- 強制排気装置:室内の汚染空気を効率的に排出し、清浄な環境を維持します。
- 給気装置:塗装面への塵埃付着防止や温度湿度管理のため、調整された清浄空気を供給します。
- 塗料ミスト除去装置:排気空気中の塗料ミストを濾布または水洗方式によって除去し、公害対策を徹底します。
- 乾式塗装ブース
排気をフィルターに通過させて、塗料ミストをフィルターに吸着させる方式であり、代表的なフィルターに「アレスターパッド」があります。 - 湿式塗装ブース(水洗式)
塗装量が多く、乾式ブースではフィルター汚れが激しく、長時間の使用に耐えない場合に適用されます。塗料ミストの捕集は、塗料ミストをウォーターカーテン又は水粒で水に吸着させ洗い落とし、後段に設置されたエリミネーターで水粒と共に除去することで行います。
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密閉式塗装ブース
被塗物を搬送する部分以外を密閉した形状のブースで、高級な塗装面の仕上がりを要求される場合に適用されます。この形状のブースは、必ず給気装置が必要なプッシュプル型換気装置です。 -
開放式塗装ブース
塗装ブースの一部を開放するか、パンチング鋼板で囲った形状のブース。開放式プッシュプル型換気装置と、2種類のフード形式があります。 — フード形式-
囲い式フード
被塗物がフード内側にほぼ完全に囲い込まれており、作業者はフード内に入って作業出来ません。
排風量(Q)(m3/min) = 60秒×制御風速(m/s) ×開口面積(m2)
制御風速は0.4m/sec -
外付け式フード
被塗物がフードの外側にあります。開口面の外側にある塗装部に対して吸い込み気流を与えて、塗料ミストをフードまで吸引する為、排風量が大きく、外側の乱れ気流の影響をうけやすくなります。塗装ガン、作業者ともフード外で塗装します。排風量(Q)(m3/min) = 60秒×制御風速(m/s) {(開口面からの距離)2(m)+開口面積(m2)}
制御風速は0.5m/sec
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囲い式フード
塗装ブースの設置・運用には、労働安全衛生法や有機溶剤中毒予防規則など、各種法令の遵守が求められます。特に、有機溶剤を使用する場合は、局所排気装置の設置や排気処理設備の適正な維持管理が義務付けられています。さらに、地方自治体の環境条例に基づく公害防止対策も重要なポイントです。
近年、塗装ブースはエコロジー・省エネ志向の設計や、より高精度な空気管理システムを搭載したモデルが増えています。自動化・IoT技術の導入により、作業の効率化やデータによる品質管理も進んでいます。今後は、さらに環境負荷の低減や作業者の快適性向上を目指した技術革新が期待されています。
塗装ブースは、作業者の健康と安全、製品の高品質な仕上がり、周辺環境への配慮など、多様な目的と必要性を持つ設備です。その設置と運用には、法令遵守と技術的進化が不可欠であり、今後も安全・環境・品質に関するさらなる向上が求められます。